■基本的視点
【緊急提言1】障害者が参加できるIT講習体制の実現を
【緊急提言2】「もの」と「ひと」によって情報格差是正を推進すること
1)IT関連機器、インフラの本格的な普及を
2)「ひと」による支援活動の推進
3)研究開発へ当事者参加
4)参政権が保障される投票制度を
5)災害時の情報保障
【緊急提言3】IT関連の障害者政策の総合的な検討体制を
(別紙)障害者の受講を考慮したIT講習会モデル
IT(情報技術)は、障害者にとって無が有になる希望の道具です。ITの活用によって、知的障害者、精神障害者を含めどのような障害があっても人生はすばらしいと実感できるような、社会参加とノーマライゼーションが実現される可能性が広がっています。しかし、ITを活用するには、障害があることでさまざまなバリアーが山積します。
IT基本法は、第3条で「すべての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現」をのべ、第8条で「利用の機会等の格差の是正」を強調しました。この「情報アクセス」の保障は、1993年の障害者基本法や国連・障害者の機会均等に関する基準規則でも世界的な理念として確認され、まさに「情報アクセス、情報発信は現代の基本的人権」(郵政省電気通信審議会、1995年)といえるものです。それは障害者だけでなく、高齢者はじめ、すべての人のために不可欠な権利だからです。本年3月2日、IT戦略本部より発表された「e-Japan重点計画(案)」でも、「横断的な課題」として情報格差是正を位置づけています。
しかし、「IT普及国民運動」の柱であるIT講習会は、多くの障害者が参加できない事態となっています。これは、パソコン本体やソフト、周辺機器の普及とともに不可欠な「ひと」の支援、専門家の育成などの施策が不十分なことも原因の一端となっています。このままでは障害者はITによる恩恵からとり残されてしまうのではないかという不安が増大しています。
私ども日本障害者協議会は、1995年から市民的な障害者支援のとりくみである「パソコンボランティア」を本格的に推進する一方で、1998年には「障害者に関する総合計画提言(「情報保障」)」など調査、政策提言を行ってきました。私どもは、今日の状況にかんがみ、つぎのような重点的な緊急提言を行うものです。
サブタイトルを「愛と手(あいてぃ)」推進としました。ITというと「技術面」がイメージされ「こころ」や「ひと」が疎遠に感じられがちです。「愛=こころ」と「手=テクノロジーと担い手」の広がりが、日常生活で実感できるように、障害者を含めたすべての人のための、本格的な「愛と手(あいてぃ)」推進を強く願うものです。
障害者が参加する講習会には、入力機器のフィッティング(個々の体への適合)、会場への交通アクセスや会場のバリアフリー、わかりやすい講習テキストの準備が不可欠です。そのための予算措置含めた条件整備が必要です。
講習にはどのような配慮と体制が必要などをわかりやすく解説した「IT講習のモデルケース」(別紙参照)を示すなど、各自治体のとりくみを促すことが大切です。
障害の種別や程度、コミュニケーション手段の違いを考慮し、さまざまな補助機器を整備した場で、専門的なスタッフによる特別なIT講習の機会が切望されます。
「受講は1回かぎり」ではなく、自宅に戻ってからの使用環境の設定、二次障害予防など総合的かつ継続的な講習体制が強く求められます。
そのため、講師はもとより講習前後の支援を行うボランティアの研修と、IT利用環境を総合的に支えることのできる専門家の育成が急務です。
「障害者情報バリアフリー化支援事業」で、視覚障害者と上肢の肢体不自由者に上限10万円まで(行政が3分の2負担)の周辺機器助成がはじまります。しかし、個人負担の3分の1でさえ、障害基礎年金(月額1級8万3775円、2級6万7016円)では経済的にたいへん厳しいものがあります。また、財政基盤の弱い自治体では「自主規制」も起こりかねず、新たな地域間格差も生まれかねません。
すでにインターネット端末となった携帯電話を含め、パソコン及び周辺機器は「日常生活用具」に加えるべきです。
携帯電話や電子メール、ホームページなどIT利用の手段が次々と増えています。機器の互換性や読み上げソフトの使い方の習得、読み上げやすさを考慮したホームページなど省庁連携による総合的なアクセシビリティの確保が必要です。
行政や図書館、公民館など公共施設に設置される関連機器には、アクセシビリティが配慮された端末が設置されるように徹底すべきです。
神経難病患者など長期入院をよぎなくされる人たちのIT利用を推進するため医療機関内のインフラ整備が必要です。
IT推進のためには「もの」だけでなく、入出力装置の「フィッティング技術」や「改造」、さらには「障害理解」や医療的、教育的な技能を持つ「ひと」による支援が不可欠です。居住する地域で必要な支援が継続的に受けられるよう、専門家の育成が必須の課題です。
首都圏や政令都市には、障害者のIT機器利用について総合的な相談が受けられ、機器展示や貸出しができる、上記専門家を配置した公的機関が必要です。
当事者どうしや、ボランティアや非営利活動など人的支援活動に、活動拠点の提供や、研修機会の提供、適切な予算措置が必要です。
現行の助成金は大きな企業や法人を対象に大規模のものが多く、小規模で数多くの利用機会のある制度の改善も求められます。
各省庁が助成する研究開発には、たとえば応募に際しては「障害者を考慮したものか」を明記させ、開発に当たっては当事者の意見を必ず聞くなど、当事者参加を徹底すべきです。
自分に適した方式で投票に参加するための、電子投票、郵便投票などによる複合手段の充実や、現行投票所のバリアフリー化は必須です。
とりわけ、電子投票の導入にあたっては「すべての有権者に使えるか」「投票の秘密は守られるか」など、障害者を含めた慎重な調査が必要です。
政見放送への手話通訳や字幕放送などの整備、及び選挙公報の点字化・録音化などの条件整備は充実が切望されます。
緊急情報を受けるための条件整備を急ぐ必要があります。CS通信の緊急信号整備、肝心なときに使える電話網と電話機、TV(地上波、衛星、ケーブル)やラジオ放送の緊急マニュアル作成、避難所内の情報保障などは急務の課題です。
またいうまでもなく、災害時に情報を活用できるためには、日常時に情報保障が徹底されていなければなりません。行政情報はすべてアクセシブルでなければなりません。
以上のような施策の実現のためには、各省の枠をこえて、総合的かつ専門的な検討体制が求められます。さらに、今後の高度情報通信ネットワーク社会の形成にむけて、単年度単位ではなく、長期的な検討体制が必要です。なお、以上の検討体制に障害者の参加が保障されることはいうまでもありません。